日々の業務を通じて着実に成長していくためには、仕事をやりっぱなしにせず成功も失敗もしっかりと振り返り、ナレッジを積み重ねていくことが重要ではないでしょうか。しかし、いざ振り返りをしてみても「漠然とした反省会で終わってしまう。」「結局、次にどう活かせばいいのかわからない。」という人もいるはず。
そこで本記事では、Webディレクターが効果的な振り返りをするためのKPT法の概要からKPT法を使うメリット、KPT法を有効に活用していくためのポイントをご紹介します。
特にWebディレクターやプロデューサーなど全体をとりまとめる立場の人が、Webサイト制作やシステム開発、アプリ開発などのプロジェクトにおいて、Webデザイナーやエンジニアなどのクリエイターのチームメンバーを集め、振り返りをする際にとても有効ですので、ぜひ参考にしてみてください。
KPT法とは
KPT法とは仕事などの振り返りをするためのフレームワークです。仕事やプロジェクトに対して「Keep(成果が出ていて継続すること)」「Problem(解決すべき課題)」の項目を洗い出し、そのうえでの解決策としての「Try(次に取り組むこと)」を具体的に考えるという流れになります。
ちなみに「KPT」とはKeep・Problem・Tryの3つの頭文字をとったもので、日本語では「ケー・ピー・ティー」や「ケプト」と読まれています。
KPT法で得られるメリット
KPT法はシンプルですが、非常に効果的なフレームワークです。多くの企業やプロジェクトで実際に採用されているKPT法ですが、具体的には下記の3つのメリットがあります。
チーム全体で課題や解決策を共有できる
プロジェクトチームなど複数人でKPT法を実践するときは、ホワイトボードやオンラインツールを使用して意見を書き出していくシーンが多くあります。
話し合いの議論ではなく書き出すことで、一般的な会議では上司や周りの目を気にして発言に苦手意識を持っている人でも、意見を述べやすい構造になっています。
普段は埋もれがちな視点や指摘も、全体に共有されやすくなることで、新しい気づきが生まれやすくなるというメリットがあります。
問題を客観的に整理できる
KPT法では一般的な会議のようなディスカッションにとどまらず、書き出した意見を分類していくので、問題が俯瞰してひとめで分かるように可視化されていきます。
また「Keep(成果が出ていて継続すること)」や「Problem(解決すべき課題)」といった項目ごとに沿って考えていくことができるので、頭の中で考えるよりも思考を集中させることができます。
そして最終的には必ず「Try(次に取り組むこと)」に落とし込むことで、振り返り後の行動が明確になるので、起こすべきアクションへの移行もスムーズになります。
単なる反省会でなく、建設的なディスカッションができる
プロジェクトの振り返りでよくあるケースとして、改善すべき点のみを列挙してモチベーションが下がるような単なる反省会となることも少なくありません。
しかしKPT法では「Problem(解決すべき課題)」以外に「Keep(成果が出ていて継続すること)」と「Try(次に取り組むこと)」も書き出すため、多角的に問題を捉えて、悪かった点だけでなく、今まで認識していなかった良かった点も含めてポジティブに次のプロジェクトへの糧にすることができます。
KPT法をつかった振り返りの手順
では、ここからは具体的なKPT法の進め方についてご紹介します。
KPT法での振り返りは、以下の手順で行います。
ひとりでも複数人でも、進め方は同じです。ホワイトボードや紙はもちろん、パソコンでまとめることも可能です。またリモートワーク化ではTrelloやAdobe XDをチームメンバー内で共有するなどオンラインツールを使って、進めることもできます。
KPTのフォーマットを準備する
長方形を下図のように区切り、各スペースを「Keep」「Problem」「Try」の3つのセクションに分けます。
Keep | Try |
Problem |
「Keep」に「成功したこと・このまま継続すること」を書き出す
「Keep」の欄には「成功したこと・このまま継続すること」を書き出しましょう。ホワイトボードを使って進める場合は色つきの付箋に記入して貼ったり、オンラインツールの場合は文字の色を工夫することで、複数人で進める場合でもそれぞれの意見の視認性を高くすることができます。
「Problem」に「課題と感じたこと、改善したいこと」を書き出す
「Problem」の欄に「課題と感じたこと、改善したいこと」を書き出しましょう。「Keep」や「Try」にも当てはまることですが、このとき細かなことや周りの目は気にせず、ブレストのような形で思いついたものをどんどん書き出していくことで、とにかく多くの意見を洗い出すことがオススメです。
「Keep」と「Problem」の内容から「Try」に「新たに実践すること・具体的な解決策」を書き出す
Keep・Problemの内容を通じて明らかになった事項に対して、問題を解決するための具体的な解決策や良かった点を再現するために実践していくことなど、次にどういったアクションを取るのかを「Try」の欄に書き出しましょう。
漠然とした改善点を出すのではなく、Keep・Problemがあげられた理由や原因をしっかり議論したうえで、次回以降のプロジェクトでしっかり実行にうつせる解決策を設定することがポイントです。
Webサイト制作におけるKPT法の活用事例
では実際にWebサイト制作の振り返りを想定して、KPT法の実践方法を具体的にみていきましょう。今回はWebディレクター、Webデザイナー、フロントエンドエンジニアがチームを組んでWebサイトリニューアルを行った場合を想定して、振り返りを進めてみたいと思います。
実際の現場でKPT法を通じて振り返りを行う場合も、Webディレクター、Webデザイナー、フロントエンドエンジニア、プロデューサーなどのチームメンバーを交えて行うことで、それぞれの立場から捉えた課題や良かった点など、多面的な分析を行うことができて有意義になるでしょう。
今回のプロジェクトの所感としては、「チーム一丸となりデザイン性においてクオリティの高いサイトを制作したが、クライアントとの折衝やタスクの進め方で一部想定どおりに進められなかった」といったものをイメージしています。
それではまず、振り返りを行った中で「Keep」に「成功したこと・このまま継続すること」をピックアップして記入していきました。
Keep ・ウェブサイトを総合的に良くするために、ディレクター、デザイナー、エンジニアの垣根を超えて、チーム全体でアイデアを出して取り組むことができた ・若手が積極的に活躍した ・新しいデザイン表現に挑戦することができた |
Try |
Problem |
例えば、全体を通してクオリティをあげるためにディレクター、デザイナー、エンジニアの垣根を超えて、チーム全体でアイデアを出して取り組むことができたことは今後も継続していきたいと思ったので、「Keep」に記入しています。
これで「Keep」への記入が終わりました。次は「Problem」の欄に「課題と感じたこと、改善したいこと」を記入していきます。
Keep ・ウェブサイトを総合的に良くするために、ディレクター、デザイナー、エンジニアの垣根を超えて、チーム全体でアイデアを出して取り組むことができた ・若手が積極的に活躍した ・新しいデザイン表現に挑戦することができた |
Try |
Problem ・更新性の考慮がやや欠けていたため、運用手順が少し煩雑になってしまった ・スケジュールの都合で、機能の実現可能性について都度エンジニアに確認する工程をスキップしてしまった ・デザインの調整が多く、作業している中で、当初掲げていたウェブサイトとして達成すべき目標を見失いそうになってしまった |
例えば、スケジュール調整やクライアント折衝に問題が発生した場合にチーム全体で取り組むような姿勢が崩れてしまっていることが挙げられています。こういった点は課題と感じたため「Problem」に記入しました。
では最後に、ここまでのKeep・Problemを踏まえたうえで「Try」の欄に「新たに実践すること・具体的な解決策」を記入していきます。
Keep ・ウェブサイトを総合的に良くするために、ディレクター、デザイナー、エンジニアの垣根を超えて、チーム全体でアイデアを出して取り組むことができた ・若手が積極的に活躍した ・新しいデザイン表現に挑戦することができた |
Try ・デザインの調整が繰り返されても、プロジェクトの最初に掲げた目標を見失わないようにメンバー間で声をかけ続ける ・公開直後の見栄えだけでなく、更新性や先方の運用体制を考慮した構造にする ・垣根を超えた進め方でクオリティは高められるため、複数人でのレビューをする仕組みを作る |
Problem ・更新性の考慮がやや欠けていたため、運用手順が少し煩雑になってしまった ・スケジュールの都合で、機能の実現可能性について都度エンジニアに確認する工程をスキップしてしまった ・デザインの調整が多く、作業している中で、当初掲げていたウェブサイトとして達成すべき目標を見失いそうになってしまった |
チーム全体で垣根を越えて取り組む姿勢は残しつつも、進行に問題が発生した場合にそれが崩れてしまわないように、定例を設けたり必ず複数人のレビューを入れてみることが具体的な解決策になると考えたため、Tryに記載しました。
このようにKeep・Problem・Tryと順序だてて振り返ることで、課題から解決策までを論理的に考えていくことができます。
これでKPT法の振り返りは完了になります。
KPT法を有効に活用するポイント
どんなことでもフラットに発言できる環境を用意する
KPT法の効果を最大化させるために最も重要なことは、参加者全員が同じ方向を向いて問題について話し合うことです。つまり、上司や周りの目を気にせず自由に意見を出せる雰囲気づくりがKPT法のスタートになります。
いろんな人の意見が飛び交うことで、多角的に問題を捉えることができ、その結果、ひとりでは導き出すことができない解決策やアクションに結びつくことは多々あります。
ファシリテーターを設ける
参加者の人数が多くなるほど、議論が発散していく可能性は高くなります。KPT法の最終目標はあくまでも具体的な解決策である「Try」を導き出すことにあります。限られた時間のなかで結論に辿り着くために、重要そうなトピックに誘導したり時間配分をコントロールするファシリテーターをアサインすることは有効です。一般的には全体を俯瞰している、Webディレクターやプロデューサーが務めるといいでしょう。
プロジェクトにおいてKPT法を行う場合は、ディレクターなどプロジェクトを統括する立場の人がファシリテーターをすることが一般的です。
定期的にKPT法による振り返りを実施する
KPT法は一度やったら終わりでなく、定期的に何度も繰り返すことが重要です。
「前回設定したTryはその後、きちんと機能したのか」という観点を含めることで、ナレッジが着実に積み重なり、徐々にプロジェクトの進め方などが改善していく様子を実感しやすくなります。
KPT法を通じてトライ&エラーを繰り返すことで、学習と実践がつながってサイクルとなり、日々の業務に学びの循環が生まれていきます。
まとめ
本記事ではWebディレクターがKPT法を使うメリットやKPT法を有効に活用していくためのポイントを紹介しました。
KPT法は振り返りをKeep・Problem・Tryの3つの要素に分類したうえでメンバー間で共有することで、チームとして何を改善していくべきかが明確になることから、非常にシンプルで効果的なフレームワークと言えます。
継続的なKPT法の実践を通じて、課題の共有から具体的な解決策のアウトプットのサイクルが循環し、チームのパフォーマンスを確実に向上し続けることができます。プロジェクトが終了した間もないタイミングで、Webディレクターやプロデューサーから振り返りの機会を設けるといいでしょう。
スピード感が求められ、かつチーム編成も流動的でナレッジが蓄積されにくいWebサイト制作のようなプロジェクトでも、ナレッジ蓄積の機会を逃さず、ナレッジとして活かし続けるために、Webディレクターの方はぜひ振り返りのフレームワークであるKPT法を活用してみてはいかがでしょうか。