目次
はじめに
デザイン業界は、日々変化し続ける分野ということもあり、キャリアパスも多様化しています。その中でも、「転職」というイベントは自身のスキルアップやキャリアアップの手段としてより身近になってきました。しかし、転職回数が多いことはネガティブな印象を与えてしまう恐れがあることも事実です。本記事では、デザイナーの転職回数がキャリアにどのような影響を与えるのか、そして転職回数が多いことが本当に不利になるのかについて、解説していきます。
デザイン・クリエイティブ・Web業界における転職の現状
デザイン業界、特にWebやアプリ開発の分野では、クリエイターの採用需要が高まったり、技術の進歩が進んでいるため、求められるスキルセットも日々変化しています。また、フリーランスや個人事業主として働くデザイナーも増加傾向にあり、終身雇用はもとより「正社員」という概念すら薄れつつあります。このような状況下で、「転職」はデザイナーのキャリア形成のために発生することが自然なイベントとして場合によってポジティブに捉えられるようになってきています。
転職回数に関する一般的な見られ方
転職回数に関する一般的な見方は、業界によって大きく異なります。従来の日本企業では、頻繁な転職は「忍耐力がない」や「継続力がない」など否定的に捉えられることが多くありました。しかし、デザイン業界やIT業界では、この見方が徐々に変化しつつあり、転職経験そのものをネガティブに評価することは少なくなってきています。一方で、転職回数が極端に多い場合(例えば、1年以内に転職を繰り返すなど)は、依然として懸念材料となる可能性があるので注意が必要です。
ただ、やはり重要なのは、転職回数そのものではなく、転職の理由や、それによって得られた経験やスキルについてしっかりと説明できるかどうかです。デザイナーとしての成長ストーリーを明確に示すことができれば、転職回数の多さはむしろポジティブな要素として評価される可能性も高いでしょう。
転職回数が多いことのメリット
まず、クリエイターにとっての転職回数が多いことのメリットについて見ていきましょう。
1.適応力やビジネススキルが高まる
様々な企業で働くことで、多様な会社の文化や働き方に触れることができます。例えば、大手企業のブランディングチームとスタートアップのデザインチームへの参加では得られる経験やスキルは、全く異なるはずです。
そして、そこで得た経験はクライアントワークにおいても大きな強みとなるでしょう。多様な企業文化を理解していることで、クライアントのニーズや価値観をより深く理解することができ、効果的なアイデアを提案できるかもしれません。
2.スキルセットが幅広くなる
企業によって、使用するツールや手法、プロジェクトの規模や性質は、それぞれ特徴を持っています。転職の度にそれぞれの職場環境に適応して働くことで、より幅広いスキルを得られるでしょう。UI/UXデザイン、グラフィックデザイン、モーショングラフィックスなど、様々な分野のスキルを身につけることで、オールマイティーなデザイナーとして成長することができるはずです。
3.人脈が広がる
転職を重ねることで、業界内のネットワークは自然と拡大します。これは、キャリアに確実にプラスとなるはずです。例えば、多様な人脈を持っていることは、将来的な協業やキャリアアップの機会につながるでしょう。他にも、業界の最新トレンドや動向についての貴重な情報を素早くキャッチアップにも役立つかもしれません。
4.自身の強みを客観的に把握できる
複数の企業での経験を通じて、デザイナーは自身の強みと弱みをより明確に認識できるようになるでしょう。例えば、「ユーザーリサーチに強みを持つ」「プロトタイピングが得意」「チーム内のコミュニケーションが上手い」など、自身の特徴を具体的に把握することができます。
これにより、次のキャリアステップを考える際に、自身の強みを活かせる職場を正しく選択できたり、弱みを補完できる機会を見つけやすくなるはずです。結果として、より戦略的なキャリアを築くことができるようになり、長期的な市場価値の向上にもつながるのです。
転職回数が多いことのデメリット
転職には多くのメリットがある一方で、もちろんデメリットも存在します。ここでは、実際に転職回数が多いデザイナーが採用担当者にどのようなネガティブな印象を与えるのか?、とそのイメージを払拭するための対策について解説します。
1.キャリアに一貫性がない=計画性のない人物と疑われてしまう
転職回数が多く、特に職種を何度も変更してきたデザイナーは、「キャリアに一貫性を持つことができない、計画性のない人物」とネガティブな評価を受ける恐れがあります。
例えば、短期間で職場や職種を転々とすると、特定の分野や技術について深い知識や経験を積みにくくなりがちです。そのため、将来のキャリアについてしっかりとした計画がないような印象を与えてしまうことがあるのです。対策としては以下の3点が挙げられます。
- 転職の理由と、そこで学んだことを明確に説明できるようにしておく
- ポートフォリオを通じて、スキルがどう成長したか、専門性がどう深まったかを示す
- 面接では、長期的なキャリアプランをはっきり伝える
2.信頼性に欠けた人物と思われてしまう
頻繁な転職歴は、採用する側の企業にさまざまな不安を抱かせるかもしれません。
例えば、企業は社員の育成にある程度の時間とお金をかけます。転職回数が多いデザイナーに対しては、「この人もすぐに辞めてしまうのでは」「厳しい環境に適用できないのでは」などと心配になり採用を止めてしまう恐れがあります。また、事業会社のデザイナーは自社のプロダクト開発の初期段階から関わることが多く、重要な秘密情報を知る機会が多いです。頻繁な転職歴があると、このような情報の管理について心配される可能性があります。対策としては以下の3点が挙げられます。
- 過去の職場での貢献や、長期的なプロジェクトへの関わりを強調する
- 機密情報の扱いをきちんと理解している
- 前の職場からの推薦状や、長く付き合いのある元同僚からの評価を活用する
これらの問題点は、意識していれば難しいことではありません。大切なのは、自分の転職歴を戦略的に説明し、それぞれの経験がどのようにキャリアの成長につながったかを示すことと言えるでしょう。
採用する側の評価ポイントについて
デザイナーの転職回数が多い場合、採用する側はどのような評価を行うのでしょうか。ここでは、採用担当者や人事マネージャーの視点から、採用時の評価基準について説明します。
1.キャリアアップのための転職か
採用側は、今回の転職というものがどのような背景があって行っているものなのかを非常に重視しています。例えば、「より成長するための転職」であればポジティブな評価もあり得ますが、様々な業界や職種を転々としていた場合しっかりと背景の説明ができていないと不信感を持たれる恐れもあります。よって、面接前に転職理由についてきちんと説明できるようにしておくことがポイントです。
2.幅広いスキルを持っているか
採用側は、転職回数の多いデザイナーを評価する際、次のような3点に注目する傾向があります。デザイナーは、このようなスキルをしっかりと持った人物であることをアピールしていく必要があります。
- 高いプロジェクト経験値:転職回数を重ねて様々な企業で働いた分、多様なスキルが身につけていることを採用側は期待しています。ご自身が持つデザインスキルについての説明の準備を入念に行いましょう。
- 適応力と学ぶ力:新しい環境や技術にすぐに慣れる能力は、転職経験の多いデザイナーの強みと採用側は捉えているはずです。過去の職場で新しい課題にどう対応したかを説明できるようにしておきましょう。
- プロジェクトをやり遂げる力:会社に入ってもらうからには、担当プロジェクトを責任を持ってやり遂げる人材を欲しがるはずです。短期間の在籍でも、重要なプロジェクトを最後まで成し遂げた実績があれば、しっかりとアピールできるようにしましょう。
3.高いデザインスキルを持っているのか
転職回数が多い場合、採用側は高いデザインスキルを持っていることを期待する傾向があります。そのため、ポートフォリオの準備は念入りに行うと良いでしょう。デザインの質に凝るのはもちろんのこと、具体的なプロジェクトの詳細の説明をし、そのプロジェクトでの成果を数字で示したり、クライアントからの評価などを記載すると良いでしょう。
4.面接にて、能力や人柄がポジティブに伝わってくるか
採用側は面接において、転職経験から得たスキルや知識、そしてそれらを活かす能力を詳しく聞きたがるはずです。
ポイントとして一番大切なのは、転職というものをポジティブな「成長機会」として語っていくことです。まずはこれまでの転職経験を一つのキャリアを構築していく上での物語として説明するのが良いでしょう。そして、それぞれの職場経験から得た具体的な学びやスキルについてアピールし、これからの長期的なキャリアプランについて自信を持って語っていくことが重要です。
準備不足で面談に臨むと、思うようにスキルをアピールできなかったり、緊張も伴ってあなたの人柄の良さが伝わらなくなってしまいます。準備を重ねて面接には挑むようにしましょう。
5.どのくらいの回数、転職を経験してきたのか?
転職回数も評価ポイントにはもちろん含まれます。大きな傾向としては転職回数が少ない方が望ましいと考えられます。ひとつの会社で5年や10年など長期間にわたって勤務されていた方は、それを好む会社から高評価になることがあるでしょう。また回数としては20代で2回以下、30代前半で3回以下、30代後半で4回以下などが好まれる傾向にあるのではないかと考えています。
1社あたりの在籍期間は3年がひとつの目安
求職者の状況や年齢、スキルセットなどにもよるのですが、おおよその目安として3年に1回であれば許容範囲と見做されるケースが多いです。もちろん可能であれば長いことに越したことはありません。3年よりも在職期間が短い場合は転職が必要であったことをしっかり説明できることが望ましいでしょう。また勤めていた会社の待遇などが極端に良く無い場合は、その内容を説明できれば理解が得られやすいでしょう。
転職回数の具体的なケース
以下は筆者がこれまでに関わったことのある転職成功者の転職経歴です。(匿名のため詳細は必要に応じて変更しています)
転職成功の考え方は人によって異なりますが、具体的なケースとして参考にしてみてください。
32歳男性デザイナー
(1) 新卒で小規模のデザイン制作会社に入社 (3年勤務)
(2) 20名程度のデザイン制作会社に転職 (4年勤務)
(3) 100名程度の制作会社に転職 (3年勤務)
(4) IT系事業会社に転職 (待遇面で優れた環境を実現)
27歳女性ディレクター
(1) 新卒で中規模の広告制作会社に入社 (4年勤務)
(2) 少数精鋭のデザイン会社に転職 (2年勤務)
(3) 別の少数精鋭のデザイン会社に転職 (仕事のやりがいを実現)
28歳男性エンジニア
(1) 新卒でメーカー営業職に入社 (2年勤務、独学でHTML、CSS、javascript、Ruby on Railsを学習)
(2) 退職後に職業訓練校に入りさらに学習を進める
(3) 小規模のデザイン制作会社にエンジニアとして入社 (3年勤務)
(4) 広告代理店規模の制作会社にエンジニアとして入社 (優れた待遇面とやりがいを実現)
前述の様に、環境を変えることで幅広いスキルを身につけたり、仕事においての広い視野を持てる様になるための転職は有意義であると言えるでしょう。自身のキャリアを中期的に見つめ、今いる環境や次の環境で何を成し遂げるべきかを意識することが重要です
転職回数についての考え方まとめ
転職回数の影響は個人と状況による
ここまで、デザイナー、ディレクター、エンジニア、プロデューサーなどのクリエイターの転職回数の多さに関して、メリットやデメリット、採用側の視点を交えながら解説してきました。やはりデザイナーの転職回数が多いことは、一概に良いとも悪いとも言えません。その影響は、個人のキャリア目標、スキルセット、そして転職の理由や戦略性によって大きく異なるからです。
重要なのは、各転職が明確な目的を持ち、キャリアの成長につながっているかどうかです。転職回数そのものよりも、その経験を通じてどのような価値を生み出したかがポイントとなってきます。
この記事をきっかけに転職回数の多いデザイナーの方は、一度ご自身のキャリアについて振り返ってみてはいかがでしょうか。
不安な場合は転職エージェントに相談を
転職に関して不安や疑問がある場合は、転職エージェントに相談することも有効な選択肢です。
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