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近年注目が集まるデザインマネージャーとは?
近年、スマートフォンアプリやサービスサイトなどのデジタルプロダクトの重要性が増す中で、ユーザー体験(UX)やユーザーインターフェース(UI)の質がサービスやそれを運営する企業の競争力を左右する時代となりました。そんな中、デザインの重要性が再認識され、デザインチームを統括し、ビジネス上の目標と結びつける役割として「デザインマネージャー」が注目を集めています。
主に、スマートフォンアプリやサービスサイトなどを展開する事業会社の社内で、その役割が期待されているケースが多いです。
本記事では、デザインマネージャーの役割や責務、他の職種との違い、そして活躍できるポイントについて詳しく解説します。Web、アプリなどのデザイン・クリエイティブ業界で働く方々に、キャリアの新たな選択肢としてデザインマネージャーの魅力を伝え、その役割を説明できればと思います。
デザインマネージャーの基本的な役割
デザインマネージャーとは
デザインマネージャーは、組織のデザイン部門を統括し、デザインチームのリーダーを担う役職です。制作するデザインのクオリティを管理するだけでなく、チームメンバーの育成や、ビジネス戦略とデザインを結びつけ、組織全体のデザイン成熟度を高めるなど幅広い役割を担っています。
デザインマネージャーに求められる仕事
デザインマネージャーの主要な責務には以下のようなものがあります。
・制作するデザインのクオリティ管理
・デザインチームの管理とメンバーの育成
・デザインプロセスが最適になる様に
・デザインにおける戦略の立案と実行
・ビジネス部門、システム・開発部門、クライアントなどとの折衝
それぞれ詳しく解説していきたいと思います。
デザインマネージャーの役割の詳細
制作するデザインのクオリティ管理
デザインマネージャーは、チームが制作するすべてのデザイン成果物に関する責任者です。デザインが十分なクオリティであるか、ブランドイメージが一貫しているか、ユーザビリティが確保されているか、取り入れるべきデザイントレンドに適応されているかなどをチェックする役割です。定期的にデザインレビューを実施したり、デザインガイドラインの設定、デザイン承認プロセスの設定や、どの様にフィードバックを行うかのルール確立を通じて、デザインクオリティを継続的に維持できる様にします。また、それぞれのプロセスもユーザーのニーズなどに応じて随時見直していくことが求められます。
デザインチームの管理とメンバーの育成
デザインチームの管理や、デザインに関するメンバーの育成は、デザインマネージャーの中心となる役割です。それぞれのデザイナーのスキルや長所・短所を把握したうえで、適切な人材配置、タスク分配、進捗管理、目標設定などの日常的なチームマネジメントを行なっていく必要があります。さらに、各デザイナーの強みと弱みを把握し、個別の成長プランを策定・実行することで、チーム全体のスキルを向上させていきます。各デザイナーとは定期的な1on1ミーティング、日常的なデザインに関するアドバイス、心構えなどのメンタリング、講習や外部研修の機会提供なども重要な施策となります。
デザインプロセスが最適になる様に
一連のデザインに関わる作業についての効率的なプロセスの整備は、デザインマネージャーが務める重要な役割です。プロジェクトの種類や規模に応じた適切なワークフローの設計、新しいデザインツールやデザイン手法の導入、デザインスプリントの導入などが含まれます。また、自社事業のデザインシステムの策定と運用、デザインガイドラインの策定なども行うことがあるでしょう。こういったデザインシステムやガイドラインは常に見直しと改善サイクルを実施し、デザインだけでなく開発チームと連携しながら、生産性と成果物のスピードやクオリティを向上させることを目指します。
デザインにおける戦略の立案と実行
デザインマネージャーは、会社全体や担当するサービス全体のデザインにおけるコンセプトや戦略を策定し、実行も主導していきます。例えば、中長期的なデザイン方針の策定、具体的なデザイントーンへの落とし込み、CIやVIの策定、広告などプロモーションツールのトーン&マナー策定、そしてそれらを具体的に実行する施策まで含まれます。市場調査、ユーザーリサーチ、競合分析などを通じて得られたインサイトをもとに、デザインにおける戦略を策定していきます。また、デザインリサーチの方法論の確立、デザイン思考の組織への浸透、新たなデザイン手法の導入なども戦略に含まれることがあるでしょう。これらの戦略を効果的に実行し、その成果を測定・評価することで、組織のデザイン成熟度を向上させていきます。
ビジネス部門、システム・開発部門、クライアントなどとの折衝
デザインマネージャーは、様々な関係者と日常的にコミュニケーションを取ることになります。ビジネス部門とは、目標達成のためにデザインがどう様にフィットするかを考えていきます。システム・開発部門とは、技術面とデザイン面をうまく連携できるかを相談することでしょう。クライアントや依頼者がいる場合には、求められている要件を適切に把握し、デザインの方向性やデザインでの解決策を提案します。これらのコミュニケーションを通じて、デザインの価値を最大化されるよう、プロジェクト全体の管轄していきます。そのため異なる立場や視点を理解し、調整する高度なコミュニケーション能力が求められるでしょう。
上記の役割を通じて、デザインマネージャーには関わるサービスについて、ユーザー満足度の向上、デザイン効率の改善、イノベーションの種を提供する、組織にデザイン思考を浸透させる、といった成果が期待されるでしょう。
必要なスキルセットと経験
デザインマネージャーは幅広い分野に精通している必要があるため、求められるスキルセットは多岐にわたります。例えば、デザインスキル、マネジメントスキル、コミュニケーションスキル、ビジネススキル、テクニカルスキルに分類した際には以下の様なスキルが必要とされるでしょう。
デザインスキル:UI/UXデザイン、ビジュアルデザインの実務経験
マネジメントスキル:チーム管理、プロジェクト管理、メンバー育成、メンタリング
コミュニケーションスキル:プレゼンテーション、提案書作成、折衝
ビジネススキル:戦略立案、デザインコンセプト作成、データ分析、予算管理
テクニカルスキル:システム開発に関わる基本的な知識、コーディングの基礎知識、バージョン管理
デザインマネージャーになるためには、通常5年以上のデザイナーとしてのデザイン実務経験と、チームリーダーやプロジェクトリーダーとしての経験が求められます。年齢でいうと、実務経験を積んだうえの30代中盤以降に求められるケースが多いでしょう。そのためデザイナーのプレイヤーとして30代中盤頃まで活躍し、その後にデザインマネージャーとしてキャリアアップしていくケースが王道とも言えます。
デザインマネージャーと他の職種との違い
アートディレクターとの比較
アートディレクターが主にクリエイティブ、その中でも特にビジュアル面での方向性や視覚的な質に焦点を当てるのに対し、デザインマネージャーはより広範な責任を持ちます。サービス全体の設計、デザインプロセス全体の管理、チーム運営、ビジネス上の戦略との整合性を確保することなどが含まれます。こういった面で守備範囲の違いがあるでしょう。
また、求められるスキルにも違いがあります。アートディレクターには高度な美的感覚と創造力が求められますが、デザインマネージャーにはそれに加えて、マネジメントスキルやビジネス感覚が不可欠です。また、デザインシステムの構築やデザイン組織の拡大といった、より戦略的な視点も必要となります。
プロジェクトマネージャーとの違い
プロジェクトマネージャーがスケジュール、予算、リソース管理に重点を置くのに対し、デザインマネージャーはデザインの質と戦略的価値に焦点を当てます。デザインマネージャーは、プロジェクトの成功をデザインの観点から評価し、ユーザー体験の向上を通じてビジネス目標の達成を目指します。
また、管轄するチームの違いもあります。プロジェクトマネージャーは様々な職種のメンバーで構成されるプロジェクトチームを率いますが、デザインマネージャーは主にデザイナーで構成されるチームを統括します。ただし、デザインマネージャーも他部門(エンジニア、マーケティングなど)との密接な連携が求められ、プロジェクト全体におけるデザインの位置づけを最適化する役割を担います。
UXデザイナーとの違い
UXデザイナーがユーザー調査やペルソナ作成、情報アーキテクチャの設計などを行うのに対し、デザインマネージャーはそれらの活動を統括し、ビジネス戦略と結びつける役割を果たします。デザインマネージャーは、個々のUXデザイナーの成果を組織全体のデザイン戦略に統合する務めがあります。
一方で、デザインマネージャーとUXデザイナーは業務として重なる部分も多く、うまく連携していくことが求められます。
デザインマネージャーの具体的な業務内容
デザインチームのマネジメント
指導・育成・メンタリング
デザインマネージャーの重要な役割の一つが、チームメンバーの成長を支援することです。具体的には以下のような取り組みが挙げられます。これらの活動を通じて、チーム全体のスキルレベルを向上させ、モチベーション向上を図ります。
・各デザイナーの特性や強み、苦手分野や弱みの把握 (強みを伸ばす手法を取るケースが多いです)
・定期的な1on1ミーティングの実施
・定期的な人事評価や次の目標設定
・良いデザインを作るための考え方などをメンタリングする
タスクのアサインと管理
チームを効率的に運営していくために、デザインマネージャーは以下のようなタスク管理を行います。
・プロジェクトの優先順位付けとリソース配分
・デザイナーの得意分野や経験にもとづいて適切なタスクをアサインする
・場合によってはデザインスプリントの手法を取り入れる
・成果物のデザインをレビューしてブラッシュアップする
デザインプロセスを最適にする
ワークフローの構築と改善
デザインをプロセスを効率的にするために、デザインマネージャーは例えば以下のような取り組みを行います。
・プロトタイプの方法、確認方法を社内統一する
・バージョン管理を適切に行う
・社内でのデザインレビューの方法を明確にして、不要な行き戻しやレビューを省く
・デザインスプリントの導入を検討する
・デザインコンセプト資料を準備する
デザインシステムの導入と運用
より良いユーザー体験を提供するためには、デザインシステムの構築と運用が重要です。デザインマネージャーは例えば以下のような役割を担います。
・デザインシステムの意義を社内に理解してもらい、導入を検討する
・デザインパーツであるコンポーネントのライブラリを整備する
・デザインシステムに沿って量産する対象ページを明確にする (全てが対象とはならないこともあります)
・デザインシステムに沿わないデザインを導入するケースを考慮しておき、柔軟に対応する
クライアントとの折衝とプレゼンテーション
要件定義やデザインでの解決方法の提案
改善すべきニーズを適切に把握し、デザインによって解決していくために、デザインマネージャーは以下のような業務を行います。
・プロジェクト責任者、PdM、クライアントとのミーティングを行い、要件定義をする
・(場合によってはUXデザイナーと協働して) ユーザーリサーチやペルソナ分析
・競合分析とベンチマークを決める
・デザインコンセプト資料や説明資料の作成とプレゼンテーション
成果物のクオリティ管理とプレゼンテーション
デザインマネージャーには、クライアントや社内責任者に提出するデザインのクオリティを保ち、それをしっかりと説明する大切な役目があります。
この役割を果たすために、デザインマネージャーはいくつかの重要な取り組みを行います。まず、定期的にデザインレビューを行い、はっきりとした基準を設けることで、常に良質な成果物を生み出せるよう心がけます。同時に、実際のユーザーに使ってもらうテストを計画し実施することで、デザインが本当に使いやすいものになっているか確かめ、改善点を見つけ出します。
また、なぜそのデザインを選んだのかという理由を分かりやすく説明する資料を作り、クライアントの納得と信頼を得られるよう努めます。これらに加えて、クライアントに定期的に進み具合を報告し、成果をきちんと見せることで、プロジェクトの状況を常に明らかにし、クライアントとの間に信頼関係を築いていきます。こうしたさまざまな取り組みを通じて、デザインマネージャーはプロジェクトがうまくいく可能性を高め、クライアントと長く良い関係を続けていくための土台を作っていくのです。
他部門との連携
エンジニア・開発チームとの連携
デザインチームとエンジニアチームの連携は、良いプロダクト開発に不可欠でしょう。それを実現するためにデザインマネージャーは以下のような取り組みを行うべきでしょう。
・機能要件の整理とデザインに落とし込むアイデアの整合性を整理する
・理想のUX/UIを実現するための機能面での課題を把握し、どの様に実現可能かを検討する
・機能的な制限で、デザインの可能性を狭めてしまわない様に、良いデザインやUX/UIを最大限に実現する方法を検討する
ビジネス・マーケティング部門との調整
同様に良いデジタルプロダクトを実現するために、ビジネス・マーケティング部門と以下の調整を行うべきでしょう。
・ブランドイメージと、目指すべきKPIやKGIが最大限両立する方法を検討する
・CVR (コンバージョンレート)と、デザイン性の両立についても検討する
・サービスそのものだけでなく、営業資料やその他ツールにもブランドを体現するデザインを適応していく
・自社サービスや顧客理解について、デザイン思考のメソッドを取り入れてみる
デザインマネージャーになるためには
ここではデザインマネージャーをどの様に目指せるかについて、より詳しく考えていきましょう。
デザイナーとしての経験・スキルを高める
まず、デザイナーとしての経験・スキルを高めることが重要です。UI/UXデザインの実務経験を目安として5年以上積むことが望ましいとされています。この期間中、様々なプロジェクトに携わり、デザイントーンの引き出しを増やしたり、ユーザーが中心となるデザインについての考え方を身につけることが重要です。その他にも、デザイントレンドの収集もおこたらず、新しい知識とスキルについて学習し続ける姿勢が求められます。
リーダーシップ・チームマネジメント
次に、リーダーシップ経験を積むことが挙げられます。プロジェクトやチームのリーダーを務めることで、チームマネジメントやプロジェクト管理のスキルを養うことができるでしょう。後輩指導・育成やメンタリング、デザインに対する具体的なアドバイスなどを行なっていきましょう。こういった経験を通じて、メンバーの強みを活かしつつ、効率的にプロジェクトを進行させる能力を磨くことができるでしょう。
一般的に募集されている求人を見ると、プレイヤーであるデザイナーからデザインマネージャーへキャリアアップできるのは、35歳前後からとされているケースが多い様です。それまで、プレイヤーとしてバリバリ仕事をして、そのうえで仕事内容を理解したうえでマネジメント職であるデザインマネージャーを目指すのが正攻法のルートです。
ビジネススキル
ビジネスに関する知識も重要です。戦略の理解や、KPIまたはKGIの考え方、データの分析や読み取り方、戦略をどの様にデザインに落とし込んでいくかの経験、場合によっては戦略フレームワークなどを活用して、デザインを実行するひとつ上のレイヤーまで俯瞰できる様になると強みが増えることでしょう。
コミュニケーションスキル
さらに、コミュニケーションスキルも求められます。デザインコンセプト資料の作成、そのプレゼンテーションなど、制作デザインがそのサービスに対してどの様に良い影響を与えられるかを論理的に説明できることが求められます。こういったコミュニケーションスキルを身につけることで、チーム内での意思疎通や、他部門との協業がスムーズになり、プロジェクト全体の成功につながります。場合によっては経営陣に向けて説得力のあるコミュニケーションを取れるようになることが、デザインマネージャーとして成功する鍵となります。
システム開発の基本的な知識
システム開発の知識も必要となるでしょう。デザインで実現したいアイデアが、システム開発面で実現可能であるのかを意識しながら理想を追い求めていくことが必要です。データ保持の方法、他機能との整合性、システム開発に必要な工数などを意識しておきましょう。そのうえで、ユーザーにとっての理想となるUXやUIを求め続けていくことも重要です。場合によっては実現可能であるかどうかという制約を取り払うことで、斬新なアイデアも生まれる可能性があります。
これらのスキルと経験を意識的に積み重ねることで、デザインマネージャーへのキャリアアップの可能性が高まることでしょう。一方で、これらのスキルは範囲が非常に広いため、習得に時間がかかる場合や、人によっては得意や不得意といった分野がわかれてくることもあります。そのため全てをオールマイティに身につけることが難しければ、自分の適正を理解したうえで、得意分野を明確にすることで他の人と比べても誇れるスキルを身につけることができるでしょう。
まとめ
デザイン部門で不可欠なポジション
デザインマネージャーは、特に事業会社においてデザインの質とビジネス価値の両立を図る重要な存在です。その役割は、単なるデザインの管理にとどまらず、組織全体のイノベーション能力と競争力の向上に直結します。
デザイナーのキャリアアップの有望な選択肢
デザインマネージャーという職種は、クリエイターにとって魅力的なキャリアパスの一つです。デザインスキルを基盤としつつ、マネジメントやビジネススキルを磨くことで、より広い視野と影響力を持つポジションへと成長できます。
デザイナーからデザインマネージャーを目指してみる
これまでの様にデザインマネージャーはオンラインサービスを展開している会社でとても需要が高まっているポジションです。デザイナーとして仕事をしていて、より広い分野でキャリアアップを考えてみる方には魅力的な仕事でしょう。デザインマネージャーを目指したいと思ったら、この記事の内容を参考にしてみてください。デザインマネージャーへの道は挑戦的ではありますが、それだけにやりがいと成長の機会に満ちています。
この記事では、デザインマネージャーの役割と重要性について包括的に解説しました。デザイン業界で働くクリエイターの皆さんにとって、新たなキャリアパスの可能性を提示し、その魅力と課題を明らかにすることができたと思います。
デザインマネージャーは、デザインの質とビジネス価値を橋渡しする重要な役割を担っています。単なるデザインスキルだけでなく、マネジメント能力やビジネス感覚が求められる、挑戦しがいのあるポジションです。
この記事では、デザインマネージャーという職種について解説し、キャリアを考える上での新たな視点を提供できる様に考えていきました。デジタル・デザイン業界は変化の多い業界ですが、デザインマネージャーとしてのキャリアは、その変化の最前線に立ち、業界の未来を形成する素晴らしい仕事となるでしょう。
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