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バイアスとヒューリスティックの違い、これらをUXデザインに活かすためには

バイアスとヒューリスティックの違い、これらをUXデザインに活かすためには

UXデザインとは

UXデザインは、ユーザーエクスペリエンスを最適化することを目的としたデザインプロセスのことです。スマホアプリやオンラインサービスを使用するユーザーが経験する感情や行動を理解し、それに基づいてアプリやサービスの使いやすさやユーザー満足度を向上させることを意味しています。
UXデザインにおける目標は、ユーザーがアプリやサービスを使用する際のストレスを低減し、混乱を起こさせない様に配慮し、シームレスな一連の体験を提供することです。
UXデザインの制作プロセスは、ペルソナ設計、カスタマージャーニー設計、インサイトの発見、UI設計、プロトタイプの作成、ユーザーリサーチによる改善という一連のステップで構成されています。これらのプロセスは、UXデザイナーがエンドユーザーの視点に立ってアプリやサービスを設計し、場合によっては嬉しいサプライズなども盛り込んで、ユーザーに心地良い体験を提供できる様に考慮していきます。
これが実現できた優れたUXデザインは、顧客満足度やアプリやサービスに対するロイヤルティを向上させることができ、競争力の高いビジネスを実現できるでしょう。そのためには、ユーザー中心のアプローチを取り入れたUXデザイン意識することが重要です。

UXデザインに関わるバイアスとヒューリスティック

バイアスとヒューリスティックは、ユーザーの心理状態を把握して、どの様にゴールに導くかという点を理解するためにUXデザインにおいて重要な意味を持っています。しかし、これらの概念の違いや、それらをどのように活用すれば良いかについてはしっかりとした理解が必要です。本記事では、バイアスとヒューリスティックの説明や、それらの違いについて解説をして、UIデザイナー、UXデザイナー、Webディレクター、プロデューサーといった方がUXデザインにどのように活かしていくべきかについて考えていきます。

バイアスの具体的な種類とその内容

本記事でのバイアスとは、主に認知バイアス (以下バイアス) のことを指しており心理学の用語です。バイアスは、人間の意思決定に影響を与えるさまざまな心理的傾向や偏りを指します。以下に、具体的なバイアスの種類とその内容を紹介します。

損失回避バイアス

損失回避バイアスとは、人々が損失を回避しようとする傾向を指します。このバイアスにより、リスクを避けるために無難な選択をしてしまう傾向があります。新しいアイデアやプロジェクトに取り組むことをためらい、安定性や安全性を重視する傾向を指しています。例えば、新しいコーディングの技術や斬新なデザイン・レイアウトを試してみようとする際に、クライアントからの指摘や失敗を恐れてそのリスクを過大評価し、無難・安全な選択を優先することがあります。

親和性バイアス

親和性バイアスとは、自分と似た属性や信念を持つ人やグループを好み、それに対して肯定的な評価をする傾向を指します。このバイアスにより、人々は自身と同じバックグラウンド、感性、価値観を持つ人と仕事をしたがる傾向があります。ただ行き過ぎると、異なる意見を受け入れることが難しくなり、チームメンバー内の意思決定が偏りやすくなります。例えば、自身と同じ好みを持つ人とのみ意見を交換しながらデザインを制作していくと、世の中の多数の人には受け入れづらいデザインに仕上がってしまうことがあります。

希少性バイアス

希少性バイアスとは、希少性や珍しさを好む傾向を指します。このバイアスにより、限られた時間やリソースを目新しいアイデアの追求に費やしてしまう傾向があります。プロジェクト全体の中の一部のディテールのみに注力してしまい、プロジェクト全体のクオリティアップのための視点が見過ごされることがあります。例えば、新しい技術やトレンドに焦点を当て、他の重要な課題やプロジェクトに十分な注力がされないことがあります。

確証バイアス

確証バイアスとは、自身の持っているアイデアや信念を裏付ける情報を探し、それに基づいて判断する傾向を指します。このバイアスにより、客観的な分析や第三者的な視点を考慮することが難しくなり、思い込みが生じてしまうことがあります。例えば、過去の一部のプロジェクトの成功体験の印象が強く残り、自分の意見を主張しすぎてしまう様な傾向があります。

これらのバイアスは、意思決定のプロセスに影響を与えるだけでなく、プロジェクトの成果やクオリティにも大きな影響を与える可能性があるでしょう。UIデザイナー、UXデザイナー、Webディレクター、プロデューサーは、これらのバイアスが存在しているということを認識し、一歩引いた俯瞰的な視点を持つことが重要です。

ヒューリスティックの種類とその内容

ヒューリスティックは行動経済学の用語であり、くだいて簡単に説明すると「それが何かを簡単に理解するための手がかり」という様な表現もできるのではないでしょうか。世の中に存在している複雑な状況を簡略化して解決するための手法です。例えば、駅の自動改札を見れば、ICカードなどをかざして入場できる、ということが経験的に理解できているかと思います。これが理解できているおかげで、自動改札とは何なのかを都度考え込まずに済んでおりスムーズな日常生活が行えるわけです。
以下に、主なヒューリスティックの種類とその内容、またUIデザイン、UXデザインにどの様に用いられているかの例を紹介します。

代表性ヒューリスティック

代表性ヒューリスティックは、新しく入ってきた情報を過去のパターンに照らし合わせて認識するを指します。これにより、情報の類似性や一致度を基に判断し、簡易的な推論を行います。
例えば、角丸の四角の中に文字が配置されているデザインを、クリックできるボタンだと認識できることがあります。

利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックは想起ヒューリスティックとも呼ばれ、自身の周囲に存在している手に入りやすい情報や想起しやすい情報に基づいて判断する傾向を指します。人々は過去の記憶や経験によってイメージしやすい事象や情報とひもづけて、それに基づいて意思決定を行います。
例えば、メディアサイトやニュースサイトを見ていて上位ランクの記事が人気があると考え、ついクリックしてしまうということが挙げられます。

係留と調整ヒューリスティック

係留と調整ヒューリスティックは、最初に入ってきた情報を過度に信頼して、その後の情報や評価をそれに調整する傾向を指します。「アンカリング効果」とも呼ばれることがあります。最初に受けた印象や評価が、その後の情報や評価に大きな影響を与えることです。
例えば、ECサイトに掲載されている最初の価格が打ち消し線で消され、その下にディスカウント価格が表示されていると、割安だという印象を与えることができます。また人の第一印象がその後もしばらく続くということも経験のある方は多いでしょう。

シミュレーションヒューリスティック

シミュレーションヒューリスティックとは、自身の過去の経験や先入観などから「次はこうなるだろう」と考える傾向を指します。例えば、過去に「クライアントに向けたデザインの提案の際に緊張で説明やプレゼンが失敗してしまった」という経験があると、「次もうまくできないかもしれない」と判断してしまいがちです。実際のところは、当然うまくいくかどうかは試してみないとわからないのですが、過去の経験が未来の予測に影響を与えてしまうことがあるでしょう。

感情ヒューリスティック

感情ヒューリスティックは、感情や直感に基づいて判断する傾向を指します。通常、人々は物事をフェアに見ていると考えているかもしれませんが、実際には感情や直感に従って感じた、好き嫌いを基に意思決定を行っています。
例えば、好きなインフルエンサーが商品をSNSなどでおすすめをしていると、その商品本来の魅力以上に良く見えてしまうことがあるでしょう。人間は思っている以上に感情に支配されており、その感情の影響を受けて行動しているものです。

これらのヒューリスティックは、人の意思決定プロセスを簡略化する一方で、時に誤った判断や予測を引き起こすことがあります。UXデザイナー、Webディレクター、プロデューサーは、これらのヒューリスティックの影響を認識したうえで、場合によってはユーザーを導きたい方向に促すためのテクニックとして身につけておくと良いでしょう。

バイアスとヒューリスティックの違い

バイアスとヒューリスティックの基本的な違いは、バイアスが認知の歪みを指すのに対し、ヒューリスティックは問題解決の手がかりとして機能する点だと考えられます。
バイアスは主に過去の経験や、外部の影響によって形成される傾向を指し、ユーザーの行動や意思決定に影響を与えます。一方、ヒューリスティックは、複雑な状況下での意思決定を簡略化し、状況を判断したり、問題解決を助けるための手がかりです。

UXデザインをするうえでバイアスとヒューリスティックをどう意識するか

UIデザイナー、UXデザイナー、Webディレクター、プロデューサーは、自身がUXデザインを考えるうえでの先入観や誤った認識をもたらすバイアスを可能な限り排除するべきでしょう。物事についてフラットな視点で捉え、俯瞰できる視野の広さを持つことが重要です。
一方で、考え出したUXデザインを実現するためには、エンドユーザーに対してヒューリスティックをうまく活用した施策を実行することが必要です。
UIデザイナー、UXデザイナー、Webディレクター、プロデューサー自身はバイアスから解放されながらも、エンドユーザーにはヒューリスティックを活用する、というスタンスを取ることが有効なのではないでしょうか。

UXデザイン / UIデザインのヒューリスティック事例

UXデザインにおいては、バイアスとヒューリスティックを理解して、ユーザーエクスペリエンスを最適化するための戦略を展開する必要があります。バイアスによる認知の歪みを認識し、それに対処するための戦略を導入することが重要です。また、ヒューリスティックを利用して、ユーザーのニーズを理解し、効果的なデザイン決定を行うことが求められます。具体的な事例についても考えていきましょう。

オンラインショップのレイアウト

オンラインショップが広く普及してきたタイミングでは、いくつかの代表的なサイトのレイアウトが他のサイトでも用いられることが多かったです。
特に商品詳細ページは、例えばファッションECサイトであればZOZOTOWN、汎用的なECサイトであればAmazonに似たレイアウトが多く用いられることがありました。オンラインショップという実際に操作して購入してもらうという実務的な目的のあるウェブサイトであれば、特にユーザビリティの面において、ユーザーを迷わせることなく購入へと導いていくことが必要でしょう。この点は「代表性ヒューリスティック」が用いられた例と考えられます。

スマホアプリのナビゲーション

スマホアプリのナビゲーションにおいてもヒューリスティックを用いて考えられたレイアウトが多く見受けられます。ナビゲーションはスマホ本体が大型になるにつれて、操作する親指の可動域を意識する必要が出てきました。指が届きづらい上部よりか、下部の操作しやすい位置にナビゲーションがまとまってきたのは必然でしょう。その上でさらに良く操作される位置として右手の親指に近い右下に重要な要素が配置されるケースが多く見受けられます。お知らせアイコンや、メッセージアイコンなど頻繁に押される要素が見受けられるでしょう。

入力フォームのボタンの位置

会員登録などで多くの情報を入力する必要がある場合などは、入力ページが複数に分かれていることもあります。各ページで情報を入力して保存したうえで、次のページへと進んでいく操作を経験したことがあることでしょう。この際の、「入力」「保存」「次へ」などの決定ボタンの位置は右側に配置されることが多いです。一方で「前の画面へ」「キャンセル」などの副次ボタンの位置は左側に配置されることが多いでしょう。ブラウザの進む、戻るのボタンが同様に左右に配置されていることからもわかる様に、この配置もヒューリスティックを活用した代表的な例です。稀にボタンの位置が逆になっている場合などは、誤操作してしまいやすくなり、ユーザー体験を損ねてしまいます。

ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則とヒューリスティック

ヤコブ・ニールセンは、ユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの分野で知られる専門家であり、彼が提唱するユーザビリティ10原則とヒューリスティックは、UI/UXデザインの基盤となる重要な考え方です。具体的な内容はこちらの記事を参考にしてください。
ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則を見てみると、これらの考え方がヒューリスティックに基づいているということが見受けられます。ユーザーが体験しているだろう様々なケースや経験が10原則という内容に落とし込まれているのではないでしょうか。

まとめ

バイアスとヒューリスティックは、UXデザインにおいて重要な意味を持っています。バイアスは認知の歪みを指し、ユーザーの行動や意思決定に影響を与える一方、ヒューリスティックは問題解決の手がかりとして機能します。UIデザイナー、UXデザイナー、Webディレクター、プロデューサーはUXデザインを考えるにあたって、これらの概念を理解し、ユーザーエクスペリエンスを最適化するための戦略を展開することが重要です。