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デザインリサーチとは
デザインリサーチとは、主にWebサービスやスマートフォンアプリなどの制作・開発の過程において、ユーザーの行動、ニーズ、価値観、問題点を総合的に調査し、分析することを指します。このリサーチを通して、UXデザイナー、UIデザイナー、ディレクターらは、ユーザーの視点に立ってサービスを設計することができます。
UXデザインにおいては、デザインリサーチは重要なプロセスです。ユーザーエクスペリエンス(UX)の本質は、ユーザーのニーズを掴み、期待に応えることにあるため、デザインリサーチはUXデザインの基盤となります。例えば、リサーチを通じて得た気づきや知識は、直感的で使いやすいUI、心地良い画面遷移や操作感、ちょっとした示唆やサプライズを与えてくれる魅力的なサービスを作っていく際に大事なポイントとなるのです。
UXデザインやサービス設計にデザインリサーチを取り入れるメリットとは?
デザインリサーチをUXデザインやサービス設計に取り入れるメリットについていくつか解説していきます。
1.ユーザーのニーズや心理状態を把握できる
ユーザーの行動に適したサービスを作るには、まずユーザーの行動を十分に理解する必要がありますが、デザインリサーチを行うことで、ユーザーが期待していること、ニーズ、心理状態などの背景や文脈を理解することができます。
これらを理解するためには、ユーザーインタビューが有効です。ユーザーに対してどうしてその行動をしたのか?を繰り返し質問して掘り下げる(=デプスインタビュー) ことによって、ユーザーのニーズや心理状態をより正確に捉えることができるはずです。
2.これまで気が付かなかったインサイトを見つけられる可能性がある
膨大な定性的・定量的なデータをデザインへと落とし込むことは、デザイナーにとって非常に難しいことです。しかしデザインリサーチを行うと、見落としがちな発見や気づきを得ることができます。そして、よりユーザーが満足してもらいやすいデザインを、エッセンスに絞って効率的に作成しやすくなります。
3.エビデンスに基づいたサービス設計ができる
人は誰しも様々な偏見を抱えています。そして、そのような偏見はデザインを作成していく際には障害となることもあります。
たとえば、「20代の女性は、ピンクの花柄の可愛いらしいデザインが好き」というようなステレオタイプが挙げられます。このような無意識の偏見をデザインに落とし込んでしまうと、本来のユーザーのニーズとのズレが起こる恐れがあります。こういった予期せぬアクシデントを防いでくれるのが、デザインリサーチなのです。
デザインリサーチのプロセス
まずは基本的なデザインリサーチの3つのプロセスについて解説していきます。
1. リサーチ設計
デザインリサーチの成功は、初期段階の計画が非常に重要です。まずは、リサーチの目的を明確に定義し、リサーチのアプローチ方法を決めていきます。そして、対象となるユーザーを「ユーザーの年齢」「性別」「職業」といったデモグラフィックの観点、また「ライフスタイル」「興味のあること」「行動パターン」などの定性的な面からも属性を細かく設定していきます。最後に、目的に応じた適切なリサーチ手法の選択です。
リサーチ方法には、インタビュー、アンケート、観察、エスノグラフィーなど多様なものがあるため、適切な方法を選んでいく必要があります。
2. 被験者 (インタビュイー) を集める
前の段落で設定したターゲットに沿う被験者 (インタビュイー) を集めます。集め方には様々な方法が考えられます。
・内部の社員の知人などに依頼する
・クライアントがいる場合は、実際のユーザーなどに協力を依頼する
・外部のモニター会社などに協力を依頼する
といった方法が挙げられるでしょう。ターゲット設定があまりにも細かかったり、特殊な条件にしてしまうと合致する被験者を集めにくくなってしまうので注意しましょう。
3. 調査
リサーチ設計で決定した手法を用いて、実際にデータを収集していきます。データは、「定量データ」と「定性量的データ」に分類ができます。定量データは、ユーザーの好みなどといった大きな傾向を数値として把握するのに役立ち、定性データは、それぞれの行動の動機となる背景について詳しく掘り下げてしることに役立ちます。それぞれ別の目的を達成するための手法ですので、うまく使いわけていきましょう。
インタビュー調査は、被験者に質問をするインタビュアーとその答えをメモとして記録していくサポートの2人体制で臨むと良いでしょう。
4. 分析
ここまでで収集したデータを整理し、そこから有効なパターンなどを分析していきます。共通するテーマやトレンドを特定し、ユーザーのニーズや問題点を明らかにします。この過程から、デザインの方向性が具体化され、ユーザーにとって価値のあるソリューションを提案するための基盤が築かれます。
インタビューのメモについては、多数の箇条書きを生成AIツールの入力欄にコピペすると、その人のパーソナリティ、詳細、インサイトなどについて効率良くまとめてくれるので、おすすめです。制作会社などでレポート自体が制作物になる場合は、ぜひ試してみましょう。
デザインリサーチの具体的な手法
続いてリサーチ方法について紹介していきます。
1. デプスインタビュー
デプスインタビューは、特定の対象者に対して深く掘り下げてインタビューを行う調査手法です。質問に対する回答について、その理由や背景などを繰り返し質問していき、ユーザーの考えや感情、価値観などを詳細に理解するために実施されます。
この手法では、ユーザーの心理状況や、動機を探っていきます。たとえば、自社や競合他社の商品・サービスなどを取り上げて、その商品・サービスのどこが好きか、なぜそのサービスが好きか、具体的にどのポイントが好きか、などについて質問を繰り返していき、ユーザーの深層心理を詳細に把握していきます。デプスインタビューは、特に新しい製品やサービスの開発段階で、ユーザーの潜在的なニーズを明らかにするのに非常に有効です。
2. 行動観察
行動観察は、ユーザーが製品やサービスをどのように使用しているかを直接観察する手法です。この方法では、ユーザーが実際に行動する様子をリアルタイムで観察することで、言葉では表現しきれない微細な行動や習慣を捉えることができます。
行動観察は、制作途中のデザインプロトタイプを使用して行うことが多いです。ユーザーに実際にデザインプロトタイプを操作してもらい、操作画面を共有して見ながらどういった操作を行うかを把握します。その際にユーザーには思ったことを実際に言葉でつぶやいてもらい、心理状況を合わせて把握します。また操作が終わった後にはインタビューを行い、なぜこのボタンを押したのか、なぜ操作に迷ってしまったのか、などを詳しく質問することで課題やインサイトを見つけることができるでしょう。
3. ユーザビリティテスト
ユーザビリティテストは、ユーザーが実際に製品やサービスを使用する際の体験を評価する手法です。このテストでは、ユーガーに画面を操作してもらい、サービスに申し込みをする、商品を購入する、などの特定のタスクを用意してユーザーに実行してもらい、その過程での問題点や課題を観察して見つけます。
たとえば、Webサイトの使いやすさをテストする場合、ユーザーが情報を見つけるのにどれだけの時間がかかるか、どのような迷いが生じるかに注目しましょう。ユーザビリティテストは、デザインの使いやすさを向上させる際に役立つため、UXを最適化する際の方法としておすすめです。
4. ユーザーインタビュー
ユーザーインタビューは、ユーザーから直接フィードバックを得るための手法で、個別インタビューやグループインタビューの形式があります。
この手法では、ユーザーが製品やサービスに対して「どのように感じているか」「どのような期待を持っているか」を深く掘り下げることができます。ユーザーの感情や体験を理解する際に、デプスインタビューの形式を実施することが多いです。ユーザーインタビューは、製品の改善点や新しい機能のアイデアを得るための貴重な情報源となります。
5. アンケート調査
アンケート調査は、オンライン上に設置したアンケートを通じて広範なユーザーからデータを収集する手法です。
この方法では、特定の質問に対するユーザーの回答を集め、定量的なデータを蓄積します。たとえば、デザイントーンに関する印象、サービスに関連した興味・関心の詳細、サービスに対する満足度、特定の機能の利用頻度などを調査します。インターネット調査は、比較的効率良くデータを収集できるため、トレンドやユーザーの一般的な傾向を把握するのに効果的です。
アンケート調査はその目的にあったシステムを利用する場合もありますし、Googleフォームを活用して手軽に始める方法も一般的です。
デザインリサーチを成功させるポイント
では、デザインリサーチを成功させるためには、どのような点に注意して取り組むべきなのでしょうか?具体的なポイントを取り上げて説明します。
1. 事前リサーチ
闇雲にデザインリサーチを始めるのではなく、リサーチの目的を明確に定義することが大切です。「何を知りたいのか」「どのような課題を解決したいのか」という点を明確にし、リサーチの方向性を的確に定めて進めていくようにしましょう。
自社ですでに把握できている課題、もしかするとうまく活用できそうなアイデア、競合他社が行なっている施策、別の業界で成功した事例を自社の業界で適用できるか、などについて裏付けやオピニオンを求めるといった目的も良いでしょう。
2. 適切なリサーチ手法の選択
デザインリサーチには、インタビュー、行動観察、ワークショップなど、さまざまな手法がありますが、リサーチの目的に応じて、最適な手法を選択することが成功の鍵です。たとえば、ユーザーの行動を深く理解したい場合は、行動観察が有効です。
一方、ユーザーの感情や考えを詳しく知りたい場合は、インタビューが適していると言えるでしょう。また、リサーチの手法によって、進め方や心がけることなども変わってくるため、事前にそれぞれの手法に関して十分に理解していることがポイントです。
3. チームビルディング
デザインリサーチを行っていく際には、チームビルディングも非常に重要になっていきます。コミュニケーションに滞りが起きないようにツールを活用したり、誰か一人に過度な精神的ストレスが掛からないようにチーム編成を整えていく工夫を凝らしていくと良いでしょう。
デザインリサーチ手法を理解して、UXデザインに活かそう
デザインリサーチは、ユーザー中心のデザインを実現するための重要なプロセスです。適切な手法を選択し、得られた洞察を効果的に活用することで、ユーザーのニーズに応える優れたUXデザインを実践することができます。ご自身のプロジェクトにデザインリサーチの過程を取り入れてみてはいかがでしょうか。