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人間中心設計とは?UXデザイン、UIデザインに活かせる知識を解説

人間中心設計という言葉、近年聞く機会が増えてきました。資格を取得している、UXデザイナー、UIデザイナー、ディレクターも増加しています。一方で、その意味やスキルを正確に理解できていない人も多いです。

そこで今回は、人間中心設計の6つの原則や4つの基本プロセス、デザイン思考・UXとの違いなどについて詳しく紹介します。これらを踏まえて、UXデザインやUIデザインに取り組むことで、理論に裏打ちされたデザインが実現できると考えています。

人間中心設計とは?

人間中心設計 (HCD: Human-centered design) とは、簡単に説明すると、使う人のことを考えてモノ作りをするという考え方です。

例えば、商品やサービスを開発する時に、実際に使用するユーザーのことを考えて設計・開発することです。

使う人の観点で使いやすいデザインを追求する点はUXデザインと似ています。

また、ユーザーの利便性や満足度を高めるだけでなく、サポートコストを軽減させるなどの企業にとってもメリットがある考え方になるのです。

人間中心設計の資格とは

人間中心設計については、民間の認証資格も存在しています。NPOである人間中心設計推進機構が実施している、「人間中心設計(HCD)専門家」があります。使いにくいデジタルプロダクトやサービスを改善し、人間本位の使いやすさを追求するエキスパートを認証する制度です。民間の認証制度ではありますが、近年多くのUXデザイナーをはじめとするデジタルプロダクトに関わるクリエイターが志す制度になってきています。

人間中心設計(HCD)の6つの原則

次に、人間中心設計の原則について説明します。人間中心設計の国際規格である、ISO 9241-210 では以下の6つの原則を提示しています。

  1. ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
  2. デザインと開発全体へのユーザー参加
  3. ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
  4. プロセスの繰り返し
  5. ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
  6. 学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

1.ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン

「ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン」のステップでは商品やサービスを利用するユーザーはどんな人なのか、どんな状況で利用するのかなど、ユーザーが利用する目的や状況に合わせてデザインすることを指します。

ユーザーのことを考えたモノ作りは、ユーザーのことを知ることから始まります。

ユーザーがどんな人であるかということはもちろんですが、ユーザーのサービス利用目的や状況を知ることからスタートします。

2.デザインと開発全体へのユーザー参加

「デザインと開発全体へのユーザー参加」は、実際に対象となるユーザーにプロジェクトに参加してもらいながらサービスの設計・デザイン・開発を進めることを意味します。

先ほど紹介した「ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン」を考えるためにも、実際に使用するユーザーに参加してもらうことは必須と言えるでしょう。

プロトタイプ制作の段階からユーザーテストを実施したり、ユーザーに直接フィードバックをもらったりなど、リアルな声を聞いて常にアップデートすることが大事です。

3.ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練

「ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練」は、デザインの作成や改善をユーザーに行ってもらうということです。

自分が作りたい物を作るのではなく、「ユーザーはこういったものを求めているのではないか」という視点を持ち、常に意識をしながらデザインしていきます。また仕上がったデザインについて、ユーザーからのフィードバックを求めてそれを適宜取り入れていきます。

ユーザーに評価してもらうことで、サービスがより実践的に活用されるものに近づいていくでしょう。

4.プロセスの繰り返し

「プロセスの繰り返し」では、「3. ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練」のステップにおける、フィードバックとデザイン反映を繰り返し、サービスの改善進めていくことを意味しています。

一度、サービスが出来たら終了というわけではなく、その後のユーザー評価で見つけた課題を解決して、常にPDCAサイクルを繰り返す必要があります。

改善を何度も繰り返すことで、よりユーザーにとって便利なデザインを構築することができるのです。

5.ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン

「ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン」は、人間中心設計の目標や目的を示唆するものです。

良いUXを生み出すことで、ユーザーに「楽しい!」「便利!」などと感じるような体験が実現できます。

「ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン」は、人間中心設計のUXを作るためのプロセスです。

6.学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

「学際的なスキル・視点を含むデザインチーム」はより高いレベル、視点を持つチームを組織することです。

エンジニアやWebデザイナー、ディレクターなど、より高いスキルを持つ専門家を中心にチームを構成するようにしてください。

現実的に全ての専門家を集めることは難しいですが、できるだけ開発をより良く進めるためのチーム作りを意識しましょう。

人間中心設計(HCD)の4つの基本プロセス

次に、人間中心設計の4つの基本プロセスについて説明します。

  • 調査|利用の状況の把握と明示
  • 分析|ユーザーの要求事項の明示
  • 設計|解決策の作成
  • 評価|要求事項に対する設計の評価

調査|利用の状況の把握と明示

人間中心設計の最初のプロセスでは、「調査|利用の状況の把握と明示」を行います。

実際の利用者から利用状況などをアンケートやインタビュー、フィールド調査などで集めます。

人間中心設計では、ユーザーありきでスタートするので、ユーザーの利用実態を把握することは大事です。

分析|ユーザーの要求事項の明示

2番目のプロセス「分析|ユーザーの要求事項の明示」では、集めたデータを分析し、ユーザーが何を求めているのかを把握します。

洗い出しをしたユーザーにとって課題を定義し、整理することでより詳細なユーザー視点で求めることができるのです。

設計|解決策の作成

3番目のプロセス「設計|解決策の作成」では、ユーザーの課題解決に向けた設計を実際に作っていきます。

ペルソナやカスタマージャーニーマップをもとに現状と理想のギャップの埋める作業を行いながら、ユーザー目線の設計を行います。

ただし、ユーザーの悩みを把握しても、その悩みをどうやって解決すればいいかが分からずにいるユーザーもいるので、何で悩んでどんな解決を望んでいるのかなど、慎重に提案することが大事です。

評価|要求事項に対する設計の評価

最後のプロセス「評価|要求事項に対する設計の評価」では、解決策の評価を行います。

ユーザーが求めているものに対する解決策が妥当なものなのかをユーザーに直接評価してもらいます。

具体的には、ユーザビリティテストなどで実際に操作しながら声を集めましょう。

この目的は、高評価を集めるものではなく、あくまでも最初に見えなかった改善点を見つけることになります。

ユーザーに評価してもらうことで、制作側からは見えなかった改善点が見えます。

人間中心設計(HCD)とデザイン思考・UXとの違い

人間中心設計と似た言葉に、デザイン思考とUXがあります。

デザイン思考はデザイナーが業務で使う思考プロセスやツールを活用して、未知の問題に対して最適な解決を図る思考法です。

UXは製品やシステム、サービスの利用を通じてユーザーが得られる体験を表す言葉です。

デザイン以外にもマーケティングや品質などのさまざま要素で構成されています。

人間中心設計ではユーザーを中心に検討する考え方だという認識にしておくのが良いでしょう。

人間中心設計(HCD)を行うときのポイント

ここでは、人間中心設計を行う時のポイントを紹介します。

  • ユーザーの本当のニーズを探し出す
  • 多様な人材を集めたチームで進める
  • ユーザ―の声に耳を傾ける

ユーザーの本当のニーズを探し出す

人間中心設計を行う時は、まずはユーザーの本当のニーズを探し出すことが大事です。

これができていないと、ユーザーが満足するモノを作ることはできません。

ユーザーの本当のニーズを探し出すためには、複数人のユーザーのニーズを集めてニーズをハッキリさせることが大事です。

そのため、まずはたくさんのユーザーの欲求を満たせるものを設計することを意識して、ニーズを探し出しましょう。

多様な人材を集めたチームで進める

ユーザーを中心に考える人間中心設計では、多様な優秀な人材を集めたチームで進めることが大事です。

ユーザー分析を行う専門家、ニーズをデザインに落とし込むデザイナーなど、さまざま職種のスペシャリストでチームを構築するのは、人間中心設計において必須です。

ユーザ―の声に耳を傾ける

人間中心設計では、ユーザーの声に耳を傾けることが大事です。

開発者目線ではなく、あくまでもユーザーの声を中心にどんなモノが使いやすいと感じるのかを考えてデザインを構築することが大事です。

人間中心設計を活用した事例

神戸で170万人を超える組合員が所属する「生活協同組合コープこうべ」では、自社アプリの開発において、人間中心設計を根本に考えることで、新しい地域のコミュニティ構成に繋がっていると話しています。

ユーザーの声を聞くためにアンケートをとったり、話を聞くことで直接ユーザーの悩みを感じることができ、アプリ開発に活かしたといいます。

また、組合員と向き合ってアプリを改善し続けたことにより、いまでは安心できる地域のコミュニティになりつつあります。

参考:助け合いのマッチングはほぼ100%!「生協」の価値を現代に、コープこうべアプリが目指す世界

人間中心設計をUXデザイン、UIデザインに活かしていこう

今回は人間中心設計の6つの原則や4つの基本プロセス、デザイン思考・UXとの違いなどについて詳しく紹介してきました。

すでに営利分野の製品やサービス開発の現場では、人間中心設計の考え方が取り入れられており、様々な分野で活用されています。

UXデザイナー、UIデザイナー、ディレクター、プロデューサーといった職種の方々も改めて人間中心設計を考え方を理解して、仕事に活かしていきましょう。