目次

1. なぜポートフォリオは「良い作品」だけでは判断されないのか
ポートフォリオは作品集ではなく、仕事の適性を伝える営業資料である
ポートフォリオでまず大事なのは、必ずしも「たくさんの作品の中から何を選ぶか」だけではありません。実際には、掲載候補が数十点もあるデザイナーばかりではなく、実務経験が浅い人や、守秘義務の関係で公開できる作品が限られる人も多いでしょう。
そのため、ポートフォリオでは「厳選する」というよりも、限られた作品をどう見せるかが重要になります。作品数が少なくても、その中で自分の強みや対応できる領域、仕事の進め方が伝われば、十分に評価につながります。
たとえば、掲載できる作品が3〜5点しかない場合でも、それぞれが異なる役割を持っていれば印象は大きく変わります。コーポレートサイトでは情報設計力を見せる、LPではコンバージョンを意識した構成力を見せる、ブランドサイトでは世界観の作り方を見せる。こうした形で、作品ごとに何を伝えるかを明確にすることが大切です。
つまりポートフォリオは、作品の数や単純な完成度だけで勝負するものではありません。限られた実績の中から、どの作品でどんな力を伝えるかを設計する資料です。採用側や発注側が見ているのは、「この人は自分たちの案件でどんな価値を出せそうか」という点なのです。
もちろん、ビジュアルの完成度は重要です。ただし、それだけでは判断材料としては不十分です。クライアントの業種、サイトの種類、求められたトーン、担当範囲、制作時に工夫した点まで見えることで、はじめて実務での適性が伝わります。
よくある失敗は、作品数が少ないことを気にして、弱い作品まで無理に入れてしまうことです。数を増やすために、完成度の低い自主制作や古い作品を並べると、かえって全体の印象を下げてしまいます。作品数が少ない場合ほど、「少ないけれど、この人の特徴はわかる」という状態を目指すべきです。
2. まず決めるべきは、誰に見せるポートフォリオなのか
就職・転職・副業・業務委託で評価軸は変わる
ポートフォリオで最初に決めるべきなのは、載せる作品ではなく、見せる相手です。転職先は事業会社なのか制作会社なのか、副業で小規模案件を獲りたいのか、業務委託でプロダクトの一部を任されたいのか。ここが違うと、同じ作品でも刺さり方が変わります。
たとえば事業会社は、見た目の派手さよりも、サービス理解や継続改善への視点を重視する傾向があります。SaaSやアプリ系なら、画面単体の美しさより、ユーザーフロー、情報密度、状態設計、コンポーネント運用、デザインシステムとの整合性が見られやすいでしょう。一方で制作会社は、短期間で異なるトンマナに対応できる柔軟性、提案の幅、アウトプットの密度を重要視する傾向にあります。LP、コーポレート、採用サイト、キャンペーンなど、振れ幅に耐えられることが評価されやすいのです。
副業や業務委託では、さらに実務性が問われます。依頼側は「この人に頼んだら、どこまで自走してくれるのか」を見ています。ヒアリングからワイヤーフレーム、モックアップ、実装連携まで触れられるのか、更新しやすい設計ができるのか、レビューが少なくてもズレにくいのか。だから、成果物そのものに加えて、担当範囲と進め方を明確に示す必要があります。
自分のポジションを先に定義すると、載せる作品が絞りやすい
「幅広くできます」は、一見便利な言葉ですが、ポートフォリオでは逆効果になることがあります。なぜなら、見る側は短時間で判断する必要があるからです。最初の数分で「この人はLPが強い」「UI改善が得意そう」「ブランドサイトのトーン設計がうまい」と認識できるほうが、記憶に残ります。何でもできる人より、まずひとつ明確な軸がある人のほうが信頼されやすいわけです。
自分のポジションを定義するとは、狭くなることではありません。たとえば「Webデザイナー」ではなく、「CV導線まで検討できるLP寄りのWebデザイナー」「運用改善と情報設計が強いUI寄りのデザイナー」「ブランド世界観を崩さずにサイト設計できるコーポレート寄りのデザイナー」といった具合に、仕事の文脈まで含めて言語化することです。
ジュニアなら、無理に何でも語るより、自分が比較的深く語れる領域を軸にしたほうが安全でしょう。ミドルなら軸に加えて再現性を見せる、シニアなら意思決定やチームへの波及効果まで含めて見せる。この視点があると、作品選定も見せる順番も自然に決まってきます。

3. 何の作品をポートフォリオに載せるか?
ポートフォリオに載せる作品を選ぶときは、抽象的な「課題解決力」だけで考えるよりも、採用側や発注側が実際に判断しやすい要素で整理したほうが現実的です。特にWebデザイナーの場合は、次のような観点で作品を選ぶと、自分の対応範囲や強みが伝わりやすくなります。
(1) クライアントやサービスの知名度がある作品
もし有名企業、知名度のあるブランド、利用者の多いサービスに関わった実績があるなら、それは優先的に載せたい作品です。知名度のあるクライアントの案件は、それだけで一定の信頼材料になります。
もちろん、有名企業の案件だから無条件に評価されるわけではありません。ただ、採用側や発注側にとっては「一定の品質基準や確認フローの中で仕事をした経験がある」と受け取られやすいのは事実です。
その場合も、単に企業名を見せるだけでなく、自分がどの工程を担当したのかを明確にすることが大切です。トップページのビジュアル設計を担当したのか、下層ページの展開まで担当したのか、UIパーツの整理をしたのか、運用バナーだけを担当したのか。関与範囲を正確に書くことで、実績としての信頼性が上がります。
(2) Webサイトの種類に幅がある作品
Webデザインでは、サイトの種類によって求められる力が大きく変わります。コーポレートサイト、ブランドサイト、採用サイト、店舗サイト、ECサイト、LP、サービスサイト、メディア、管理画面など、それぞれ見られるポイントが違います。そのため、似たような作品ばかりを並べるよりも、異なる種類のサイトをバランスよく見せられると強くなります。
たとえば、コーポレートサイトでは情報整理や信頼感の設計、ブランドサイトでは世界観の表現、ECサイトでは商品理解や購入導線、LPでは訴求設計やコンバージョン意識が見られます。掲載作品の種類に幅があると、「この人は複数の文脈に対応できる」と伝わりやすくなります。
(3) デザイントーンの違いを見せられる作品
Webデザイナーの実務では、自分の好きなトーンだけを作れるわけではありません。BtoBらしい堅実なデザイン、BtoC向けの親しみやすいデザイン、ビジュアル重視のデザイン、UI重視のデザイン、コンバージョン重視のデザインなど、案件ごとに求められる表現は変わります。そのため、ポートフォリオではデザイントーンの幅も見せたいところです。すべてが同じ雰囲気に見えると、世界観は伝わりますが、対応力はやや見えにくくなります。
たとえば、堅めのBtoBサイト、感度の高いブランドサイト、CVを重視したLP、UI要素の多いサービスサイトを組み合わせると、見ている側はその人の引き出しを判断しやすくなります。
(4) 特に工夫を凝らしたデザインがある作品
ポートフォリオには、単に無難にまとまっている作品だけでなく、「この人ならではの工夫」が見える作品も入れたいところです。たとえば、キービジュアルの作り方、写真やイラストの使い方、余白やタイポグラフィの設計、スクロール演出、UIパーツの見せ方などです。
特にビジュアル面で強みを出したいデザイナーなら、印象に残る表現がある作品は重要です。採用側も発注側も、短時間でポートフォリオを見ることが多いため、記憶に残る作品があることは大きな武器になります。ただし、見た目の派手さだけで選ぶのは注意が必要です。その表現が、案件の目的やブランドの方向性に合っているかまで説明できると、より説得力が出ます。
(5) プロジェクトの過程で特筆すべき点がある作品
完成画面だけでなく、制作過程に特徴がある作品もポートフォリオ向きです。たとえば、短納期で対応した案件、複数人で分担した案件、要件が曖昧な状態から整理した案件、既存サイトの課題を改善した案件、実装チームとの連携が重要だった案件などです。
こうした作品は、見た目だけでは伝わりにくい実務力を補足できます。Webデザインの現場では、きれいな画面を作る力だけでなく、条件が複雑な中でどう進めたかも評価されます。
「最初は情報が整理されていなかったため、ページ構成から見直した」「既存のブランドトーンを保ちながら、新しい訴求を追加した」「運用しやすいようにコンポーネント化を意識した」など、プロジェクト上の工夫を添えると、仕事のリアリティが伝わります。
作品数が少ない場合は、無理に幅を出しすぎない
掲載できる作品が少ない場合は、無理にすべての基準を満たそうとしなくても大丈夫です。大切なのは、今ある作品の中で何を見せるかを明確にすることです。
たとえば3作品しかないなら、1つ目は一番完成度が高い作品、2つ目は対応できるサイト種別が伝わる作品、3つ目は制作過程の工夫が語れる作品、というように役割を分けるだけでも見え方は変わります。
ポートフォリオは、完璧な実績一覧である必要はありません。今の自分がどんな案件に対応でき、どんな強みを持っているのかを、限られた作品から伝えるための資料です。
4. 採用担当に伝わりやすい作品の見せ方
作品ごとに必要な基本情報をそろえる
作品紹介のフォーマットは、ある程度そろえたほうが読みやすいです。目的、ターゲット、担当範囲、期間、使用ツール、チーム体制、成果。このあたりが毎回整理されているだけで、見る側の負荷がかなり下がります。逆に作品ごとに書き方がバラバラだと、内容以前に読みづらさで損をします。
使用ツールも単なる羅列ではなく、文脈とセットにすると良いでしょう。たとえば「Figmaでコンポーネント設計とプロトタイプ作成」「IllustratorでKV素材制作」「STUDIOでノーコード実装の初期構築」といった書き方なら、ツールの名前が仕事の粒度に変わります。ツールごとに、それらをどう使ったかを伝わる形にしたいところです。
ビジュアルだけで終わらせず、制作プロセスを短く添える
ポートフォリオでよくある惜しい例が、完成画面は魅力的なのに、途中の思考がまったく見えないケースです。もちろん全工程を細かく見せる必要はありません。ただ、リサーチ、要件整理、ワイヤーフレーム、モックアップ、UI設計、実装連携、改善のどこに力点があったかが少しでも見えると、評価は変わってきます。
たとえば、ファーストビューの比較案、導線整理前後のワイヤーフレーム、フォームの状態変化、コンポーネント設計の一部などを要所で見せると、ただのビジュアル制作ではなく、構造を設計していたことが伝わります。採用担当が全部を読まなくても、現場メンバーが見たときに「この人は仕事の筋道が見える」と感じられる状態にしておくのが理想です。
“なぜそうしたか”を1段深く書くと、より高評価に
ポートフォリオで差がつくのは、「何をしたか」より「なぜそうしたか」です。たとえば「余白を広く取りました」では説明として弱い。余白は結果であって、意図ではないからです。そこを「情報優先度を整理し、最初に理解してほしい要素へ視線が流れるよう余白設計を調整した」と書けると、見え方が一気に変わります。
これはUIでも同じです。「ボタンを大きくした」ではなく、「高頻度操作だったためタップ領域を広げ、誤操作を減らす意図でサイズを調整した」と書く。このように一段深い粒度での説明があると、見た目の判断が偶然ではなく設計だったと伝わります。情報設計、ユーザーフロー、アクセシビリティ、状態設計などの専門用語は、こういう文脈で自然に使うと効果的でしょう。
成果の書き方は、数字がなくても工夫できる
「実績を書くべき」と言われると、多くの人が数値を出せないことに悩みます。確かにCVRや離脱率の改善が書けるなら強いです。ただ、すべての案件で数字が出せるわけではありません。だからといって成果が書けないわけではないのです。
- 問い合わせ導線を整理し、営業からの案内負荷が下がった
- 更新ルールを整理し、運用担当がバナー差し替えを自走できるようになった
- ページごとにバラついていたUIルールを統一し、実装と運用の手戻りが減った
このような書き方なら、数値がなくても価値が伝わります。成果は定量的なものだけではありません。運用効率、認識ズレの減少、一貫性の向上も立派な成果です。

5. キャリア別・掲載作品の具体例
新卒・実務未経験〜駆け出しWebデザイナーの場合
実務未経験の段階では、「案件実績が少ないから弱い」と思いがちですが、見せ方次第で十分戦えます。おすすめは、自主制作を主軸にしつつ、改善提案型の作品を混ぜる構成です。たとえば、架空の飲食店LP、既存採用サイトの改善案、EC商品ページの情報整理案。この3種類があるだけでも、訴求、情報設計、UI整理など十分に潜在的な能力を示すことができるでしょう。
大事なのは、架空でも“架空っぽくしすぎない”ことです。ターゲット、競合、ページの目的、CTA、スマホ閲覧前提、運用想定などを入れると、一気に実務感が出ます。逆に、雰囲気のいいトップ画面だけだと、学習途中の作品に見えやすく、採用側の潜在的な能力を見抜く要素を減らしてしまいます。
実務経験1〜3年のデザイナーの場合
この層は、一番ポートフォリオの方向性で悩みやすい時期です。実案件がある分、載せる候補は増えますが、何を軸にするかが曖昧になりやすい。おすすめは、主軸となる案件を2〜3本決め、その周辺に異なるタイプの案件を補助的に置く構成です。たとえば、新規制作1本、改善案件2本、運用で成果が出た案件1本。これだけで、単発制作だけでなく、改善運用まで見られる人だと伝えられます。
この時期に避けたいのは、バナーや小粒なクリエイティブを大量に並べてしまうことです。制作量は伝わりますが、案件全体をどう扱えるのかが見えにくくなります。むしろ、少数でも案件文脈が語れるものを前面に出したほうが強いです。
ミドル〜シニア層は「アウトプット」だけでなく「意思決定」を見せる
経験年数が上がると、単に画面が作れることは前提要件になってきます。見られるのは、そのデザインがどう決まったのか、誰とどう合意したのか、仕様変更や優先順位のズレにどう対応したのか、といった意思決定の部分です。つまり、見た目だけで勝負するフェーズではなくなるわけです。
たとえば、複数職種を巻き込んだレビューの進め方、デザインシステム導入で何を標準化したか、コンポーネント整理によってどの程度運用が安定したか、実装チームとの切り分けをどう設計したか。こうした説明があると、プレイヤーとしての強さに加え、組織に与える価値が伝わります。
マネジメント寄りの人が入れると強い情報
マネジメント寄りなら、レビュー観点の設計、優先順位づけ、スケジュール調整、ステークホルダー間の認識整理などを入れると強いです。進行が整うだけで品質が上がることは、現場では本当によくある話です。その価値を言葉にできると、単なる管理ではなく、デザイン成果に寄与するマネジメントだと伝わります。
スペシャリスト寄りの人が入れると強い情報
スペシャリスト寄りなら、UI品質、アクセシビリティ、状態設計、トークン設計、コンポーネント運用などを具体的に語りたいところです。細部の精度をどう担保したかまで見せられると、シニアとしての説得力が出ます。
6. あえて外したほうがいい作品と、評価を落とす見せ方
古すぎる作品、関与範囲が曖昧な作品、自己満足寄りの作品
ポートフォリオでは、入れる勇気より外す勇気のほうが大事です。たとえば、今の自分の基準から見て明らかに古い作品、担当範囲が説明できない作品、ビジュアルは派手でも目的がわからない自主制作は、全体の印象を下げることがあります。特に5年以上前のテイストが強い作品は、よほど意味がない限り外したほうが安全です。
また、トレンドだけをなぞった作品も要注意です。グラデーションや大胆なタイポ、グラスモーフィズムのような表現自体は悪くありませんが、なぜその表現なのかが語れないと、雰囲気で作った印象になります。現場では、見た目が合っていることと、文脈に合っていることは別物です。
掲載数より“捨てる判断”のほうが重要
ポートフォリオは、たくさん見せるほど評価されるわけではありません。むしろ、強い作品だけで構成した3〜4本のほうが、印象はまとまりやすいです。見る側は全作品を均等に読んでくれるわけではないので、最初に出てくる数本でほぼ印象が決まります。
順番も重要です。最初の1本目は、自分の軸が最も伝わるもの。最後の1本は、印象を補強するもの。中盤に変化球を置く。この並びだけでも読みやすさは変わります。作品を増やす前に、順番と削る判断を見直したほうが、成果は出やすいでしょう。
7. 公開前の最終チェックと、更新し続ける運用方法
公開前に確認したい実務的なチェック項目
公開前は、作品内容だけでなく、ポートフォリオ自体の使いやすさも確認したいところです。誤字脱字、リンク切れ、スマホでの閲覧性、画像の解像度、余白、文字サイズ、表示速度。このあたりは基本ですが、意外と見落としがちな部分でもあります。採用担当が通勤中にスマホで見る可能性も普通にありますから、PCだけ整っていても不十分です。
また内容チェックの基準としておすすめなのが、「初見の人が3分で自分の強みを言えるか」です。もし言えないなら、構成がまだ散らかっています。第三者に見てもらって、何が得意な人に見えたかを聞くのも有効でしょう。
ポートフォリオは作って終わりではなく、改善して育てる
ポートフォリオは、一度完成したら終わりではありません。応募先によって作品順を変える、面接で聞かれたことを補足する、実績が増えたら古い作品を入れ替える。そうやって少しずつ育てていくものです。現場のデザインと同じで、ポートフォリオも運用物です。
おすすめは、半年に一度くらい棚卸しすることです。今の自分を一番よく表している作品はどれか、逆にもう外していいものは何か。この習慣がある人は、転職や独立のタイミングで慌てません。ポートフォリオは、未来の機会に先回りしておくための資産です。
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まとめ
ポートフォリオに載せる作品選びで大事なのは、派手さでも数でもなく、「その作品が自分の何を証明してくれるか」です。課題と打ち手の一貫性、関与範囲の明確さ、再現性、そして見せる相手に合わせた編集。この4つが揃うと、ポートフォリオは単なる作品集ではなく、仕事の信頼を生む資料になります。
実務未経験なら、自主制作でも設計の深さで勝てます。経験者なら、見た目だけでなく、改善や意思決定まで見せることで一段強くなれます。逆に、何となく並べた作品群は、せっかくの実力を薄めてしまいます。
もし今ポートフォリオを見直すなら、最初にやるべきは新作を増やすことではなく、今ある作品を「誰に、何を伝えるために置くのか」で再編集することです。そこが整うだけで、通過率も面接での会話のしやすさも、かなり変わってくるはずです。
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